アニメ『RPG不動産』の話

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「今期アニメの『RPG不動産』を見ている。面白い」という話。今は8話まで見ている。雑多な感想あるいは妄想なのだけれど、ちょっとネタバレ感が強いのでここに供養。

知らない人の為に一言で紹介すると、「魔王が倒されて15年後のRPG的ファンタジー世界を舞台に、都会に出てきた少女が不動産屋で働き始める」物語。最初はあまりにごちうさっぽい街の風景に笑った。

基本的にはお気楽なお仕事系どたばた日常ものなのだが、2~3話あたりで早速不穏な雰囲気を出してくる。
というのも、主人公の琴音は第一話で同僚の女の子のファーの隣の部屋に住むことになり、「ずっと一緒だよ」と言うような仲になるのだが、ファーの正体が不明なのである。
ファーは公式サイトの説明文によれば「神官サトナに森で拾われて育てられた、大きな尻尾のある女の子。亜人の言葉が理解できる」であり、作中ではその「亜人の言葉が理解できる」という特性を活かして亜人と人間の間の通訳として活躍する。ファーの通訳のおかげで解決した問題は数多い。

のだが、街のそばでは最近ドラゴンが出没する騒ぎが起きている。ドラゴンにより近隣の街が破壊される被害も出ており、対処のために軍も動員される状況。そして、その正体はファーなのでは……? という疑いが強まっているというのが不穏要素。
ついには先輩社員にして常識的社会人のルフリアさんによって面と向かってファーが疑いの言葉をかけられるも、闖入者の存在があってその場はなあなあに。
しかし、その後も琴音(と視聴者)にはファーの被疑を高めるような情報が次々と開示されていく。
「こんなに優しくて天真爛漫な子が街を破壊するドラゴンと同じだなんて信じられないし信じたくない。でも……」その緊張感がたまらない。

不穏エピソードで一番すごかったのが第5話の後半の一幕。
ちっちゃい謎生物(ティッピーっぽい)と話しているファー。しかしその謎生物は笑顔で言う、「それ(人間と亜人種の言葉がわかる)ができるのは魔王さまだけだって聞いてたけど、君みたいな特異体質の亜人がいたなんて知らなかったなぁ」。琴音が「なんて言ってるの?」と聞くと、ファーは答える。「えっと、おしゃべりできてうれしいって」。

突然、物語の根幹が崩されるような衝撃。
ずっと物語で通訳の役目をしてきたファーが信用できない。信頼できない語り手ならぬ信頼できない訳し手。
まあそんなことはないとは思うが、今までのエピソードではファー(の善意)によってお互いの言葉が歪められた1ために物事がうまく行っていた可能性を否定できなくなった。考えてみるとそれほど重要な役目であることを強く意識せず勝手に信頼していたほうが悪いのであるが、こんな叙述トリックめいたものを食らうと驚くほかなかった。

繰り返される琴音の歌。実家でみんなが歌っていたというその民謡には竜が登場する。第8話でその歌の意味が明かされ、「異種族の共存」というテーマが強く押し出される(これまでのエピソードも相互理解によって解決する物語がほとんどではあったが)。
言葉、翻訳、相互理解。それをテーマにするならば通訳者の物語でもいいのになぜ不動産?と疑問が出たが、思えば不動産業は現実世界でも指折りの「異なる属性の人達の間を橋渡しする」仕事である。生活の根本の一つであり、かつ他に比べて選択の重大性が大きい「住」に関わるからこその、簡単な原則では割り切れない泥臭いマッチング。だからこそ地に足のついた物語が描けるのであろう。

さて、アニメの第9話より先はまだ見ていないのであるが、これほどまでに「ファー=ドラゴン」の線が怪しく見えるように誘導されてくると、きっと実はそうではないのだろう。が、オタク的には実際にそうであった場合も見たい。

もうごまかして逃げられないほどに真実を知ってしまったとき琴音はどうするか。
ルフリアさんという身内に「常識」が描かれている。王国の公務員という立場であって、ただの子供ではないから世間体は重要だ。まっとうな人生と世間を敵に回す選択は両立できない。
ここでは「世界の全てを敵に回しても」という常套句に重みが出る。琴音は最近出会ったばかりの女の子との約束の為にどこまで捨てられるか。「出世したい」と公言しているルフリアはどう振る舞うか。守りたいものを守れる力を持って(しまって)いるラキラは何を守るか。

何を選んでも傍目から理解できる選択肢であるから、そこに作者が紡いでくれる物語を見たいのだ。


  1. ちょうどこの前再読した土橋真二郎『女の子が完全なる恋愛にときめかない3つの理由』(電撃文庫)も似たテーマを扱っていた。 ↩︎



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